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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1403号 判決 1950年12月14日

主文

原判決を破棄する。

被告人を死刑に処する。

押収の銘仙縞模様モンペ一枚外衣類等一三点(証第一一乃至第一八号、証第二二号、証第四三号)は、いずれも被害者本間光臣に還付する。

第一、二審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について。

しかし、原判決は、被告人又は被告人の妻ヨシエ及び大沢しんに対する司法警察官の調書をば証拠として採用していないから、仮りに右調書が強制によるものであるとしても、原判決に影響を及ぼさないこと明白であり、その他原判決に対する事実誤認の主張は、当法律審に対する適法な上告理由ではない。

弁護人若林清の上告趣意第一点について。

刑訴規則施行規則三条三号の規定は、憲法七七条の最高裁判所の規則制定権内に属し、直接には刑訴施行法一三条に基く適法な規則であって、毫も違憲でないことは当裁判所大法廷の判例(昭和二四年(れ)二〇〇〇号同二五年二月一五日同二四年(れ)二三七号同二五年一〇月二五日各大法廷判決参照)とするところであるから、これと反対の見解を前提とする所論は採用し難い。

同第二点について。

しかし、犯行の日時のごときは罪となるべき事実でないばかりでなく、原判決挙示の証拠を綜合すれば、本件犯行が判示昭和二三年六月四日午後九時三〇分過頃行われたことを肯認するに難くはないから、原判決の理由には論旨前段のごとき違法は認められない。次に、原判決は、本件強盗殺人の犯行の用に供された物件を「細紐一本(証第七号、及び第八号はその切断されたもの)」と判示しているのであるから、その細紐が麻糸であると綿糸であるとは原判決の理由に何等影響を及ぼさないこと明白である。それ故、論旨後段も採用し難い。

同第三点について。

原判決は、「右犯跡を隠す為、前記二児の寝ていた布団の中に焚付薪を差し入れ、これに燐寸の軸木を添え、それに点火すれば順次燃え拡がる仕掛をしてその一端に点火して、現に右本間光臣の住居に使用する家屋に放火し、よって右布団三枚とその下に敷いてあった畳約三十糎平方、深さ、約一、五糎を燒燬したものである」と明瞭に認定判示している。そして、建具その他家屋の従物が建造物たる家屋の一部を構成するものと認めるには、該物件が家屋の一部に建付けられているだけでは足りず更らにこれを毀損しなければ取り外すことができない状態にあることを必要とするものである。従って、判示布団は勿論判示畳のごときは未だ家屋と一体となってこれを構成する建造物の一部といえないこと多言を要しないから、原判決の前示判示は、建造物の放火既遂の犯罪事実を認定判示したものではなく、その放火未遂の認定判示であるといわなければならない。そして、右放火未遂の事実認定は、原判決挙示の証拠によって、肯認することができるから、原判決には所論のような事実上又は証拠上の理由不備の違法は存しない。しかし、原判決は、右建造物の放火未遂の事実に対し刑法一〇八条のみを適用して同一一二条を適用していないから、この点において法律上の理由不備の違法があるものというべく、本論旨は結局その理由があって原判決は破棄を免れない。

同第四点について。

しかし、原判決の趣旨は、本間登美子のみを殺害して金品を奪取しようと決意し実行した趣旨ではなく、同人の外傍らに寝ていた長男恒弘及び長女みちほをも窒息せしめて殺害し更らに三名の咽喉をも切り、かくて、右三名の抵抗を全く排除することを手段として判示衣類等一四点を強取した趣旨であると解されるばかりでなく、強盗殺人罪は、必ずしも殺人を強盗の手段に利用することを要するものではなく、強盗の機会に人を殺害するを以て足りるものであって本件においては少くとも強盗の機会に恒弘、みちほの両名をも殺害したこと明らかであるから、原判決が登美子の外右両名に対する殺人行為に対しても刑法二四〇条後段を適用したのは違法ではない。本論旨は、その理由がない。

同第五点について。

論旨第三点が結局その理由があって、原判決は破棄を免れないことは前に述べたとおりであって、本件においては事実の確定に影響を及ぼすべき法令の違反があるとは認められないから、当裁判所が本件につき更らに判決を為すべきものである。されば、本論旨に対しては判断を与える必要を認めない。

よって、旧刑訴四四七条により原判決を破棄し、同四四八条により本件につき法令を適用するに、原判決の確定した被告人の所為中判示同家茶の間に侵入した点は刑法一三〇条に、本間登美子、同恒弘及び同みちほの三名を殺害して判示衣類等を強取した点は各同法二四〇条後段に、判示住宅に放火して判示布団及びその下の判示畳の箇所を燒燬した点は同法一一二条、一〇八条にそれぞれ該当するところ、判示住居侵入と各強盗殺人並びに判示住宅放火未遂との間には互に手段結果の関係があり且つ各住居侵入強盗殺人と住居侵入放火未遂とは一箇の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条第一項前段、後段、一〇条により結局最も重いと認められる本間登美子に対する強盗殺人罪の刑に従い所定刑中死刑を選択して被告人を死刑に処し、押収の銘仙縞模様モンペ一枚外衣類等一三点(証第一一号乃至第一八号、第二二号、第四三号)は本件強盗殺人罪に因り得た賍物であって、被害者本間光臣に還付すべき理由が明白であるから、旧刑訴三七三条一項によりこれを同人に還付すべく、第一、二審における訴訟費用は同二三七条一項により全部被告人に負担せしむべきものとし、主文のとおり判決する。

この判決は弁護人若林清の上告趣意第一点に対する沢田裁判官の少数意見(この判決に引用された各大法廷判決における同裁判官の少数意見)を除き裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

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